01
立体選択的C–N結合構築による
新規軸不斉ビアリールの合成
Synthesis of novel axially chiral biaryls by stereoselective C–N bond construction
炭素-窒素(C–N)軸不斉ビアリールは、多くの生物活性物質や機能性分子あるいは不斉配位子を構成する重要な化合物群です。医薬品又はその候補化合物にC–N軸不斉ビアリール骨格が含まれる場合、より効果的な鏡像異性体を選択的に合成する必要性がありますが、既存の合成技術では、立体異性体を作り分けることは困難です。このため、工業的にはラセミ混合物として合成し、所望の異性体を光学分割することで光学活性なC–N軸不斉ビアリールを調製するため、不要な鏡像体(50%)は破棄されています。最近C–N軸不斉分子の立体選択的合成法が報告されはじめましたが、基質適用性が低いなど多くの課題が残っています。
私たちは、二つの芳香環を連結するC–N結合を立体選択的に構築し、軸不斉ビアリールを合成する最も汎用性に優れた手法を確立します。特に、銅触媒を用いるアミン類とボロン酸のカップリング反応として知られるChan–Lamカップリングに着目し、世界初の不斉反応の開発に挑戦しています。
【研究成果】世界初のアトロプ選択的Chan–Lamカップリングを開発しました!


02
新規ボリル基の創成およびボロン酸誘導体の
新規合成法の開発による多様な分子合成法の確立
Development of new boryl groups and synthetic methods for boronic acid derivatives to establish a variety of molecular synthesis methods.
ボロン酸誘導体は、そのC–B 結合をC–C、C–N結合などへ柔軟に変換できるため有用な反応剤です。しかし、従来のボロン酸誘導体は、取り扱いが難しく、他の有機化合物とは大きく異なるノウハウが必要です。また、リチオ化に代表されるメタル化を経るホウ素導入や遷移金属触媒を用いるホウ素導入は官能基受容性や位置選択性に課題が残されており、多官能基化された基質への適用は困難です。一方、ボロン酸誘導体の官能基化によって新たなボロン酸誘導体を合成できれば、得られるホウ素化合物の多様性を大幅に拡張することができます。
当研究室で開発したボロン酸エステルの新規かつ安定な誘導体 ArB(Epin) はハンドリングが容易で、その有用性が非常に高く評価されています。私たちは開発した ArB(Epin) を含めた様々なボロン酸エステルの反応性と安定性を系統的に検討することにより、分子内にホウ素官能基を持つ化合物を官能基選択的に化学変換して、従来法では合成困難な新規ボロン酸誘導体合成法の確立を目指しています。
【研究成果】誰でも簡単に扱えるボロン酸誘導体を開発しました!


03
多彩な光学活性らせん状分子の立体選択的合成と
らせん分子構築法を基盤とする機能性分子の開発
Stereoselective synthesis of diverse optically active helical molecules and development of functional molecules based on helical molecular construction methods
ベンゼンに代表される芳香族化合物は、単純な二重結合を環内に有する環状化合物とは化学的及び物理的性質が大きく異なります。ベンゼン環が連続縮環すると、通常は電気を通さない非導電性の有機化合物が導電性物質に変化するため、これまでに様々な縮合芳香族化合物が合成され、芳香族有機半導体などとして利用されてきました。また、ベンゼン環がらせん状に縮環したヘリセンは、右巻きと左巻きの異性体が存在するためキラルな分子であり、その構造と機能が注目されています。しかし、らせん状芳香族化合物は合成が困難であり、入手可能ならせん状分子は限られています。
私たちは、独自に開発したベンザイン反応の位置制御法を発展させ、多環らせん分子の不斉合成法を確立することで、多彩な光学活性らせん状分子を立体選択的に合成し、3次元ディスプレィ等に応用可能な有機EL材料や新しい有機触媒、不斉配位子を創出します。
【研究成果】"弱い引力"を利用して『らせん分子』の合成に成功!


04
新しい重水素標識化法の開発と
医薬品を含む産業的応用
Development of novel deuteration methods and their medical and industrial applications
安定同位体である重水素 (D) で標識された化合物は、長期間の保存に耐えるとともに生体構成成分の構造解析や反応メカニズムの解明に利用できるため、様々な研究分野における有用性が指摘されています。例えば、重水素標識アミノ酸や核酸は、たんぱく質やオリゴヌクレオシドの高次構造の解析研究、酵素メカニズム解明等に応用されています。また、GC/MS を用いた安定同位体 (SI) トレーサー法の内部標準物質としても利用されています。重水素標識材料や、医薬品の一部の水素を重水素に変換したヘビードラッグも注目を集めており、その簡便合成法の開発が望まれています。
重水素標識化合物は、あらかじめ重水素化された入手容易な小分子シントンを出発原料として、多段階工程を経て合成する方法が一般的ですが、多大な時間・労力・コストが必要です。一方、水素-重水素(H–D)交換反応による目的化合物への重水素の直接導入は簡便な方法ですが、従来法では高価なD2ガスの使用や、特別な装置や高温高圧条件、強酸性あるいは強塩基性条件が必要とされ、また重水素化効率や位置選択性などの点でも多くの問題がありました。私たちはこれらの問題点の解決を目指して、不均一系触媒を用いた汎用性ある C–H 活性化に基づく直接的 H–D 交換反応の開発をしています。
【研究成果】位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C 触媒カートリッジで 150 時間以上の連続運転を実証 ―

05
次世代エネルギーシステムの構築を指向した新しい反応開発
Development of new reactions oriented toward the construction of next-generation energy systems
私たちの研究室では、「ボールミル中で水をステンレス(SUS304)製のボールとともに回転・撹拌するのみで、定量的に進行するバッチ条件下の水素製造法」を確立し、そこに還元性官能基を持つ基質を共存させると極めて効率良く接触水素化反応が進行することを見出しています。水素発生には SUS304 の構成成分である Cr が重要な役割を演じていること、そして還元性官能基を持つ有機化合物が共存すると SUS304 の Ni が触媒となって、見かけ上水を還元剤とした接触水素化が進行することが判っています。
発生した水素は、共存する還元性官能基を持つ基質の還元剤として利用することも可能です。私たちはこの知見を基盤として、反応のさらなる最適化を図り、実用的な水素製造法へと応用します。
また、化学的に安定な CO2 の還元は困難で高温・高圧条件が必須ですが、本反応ではメカノエネルギーとSUS304構成金属の触媒効果が相加(乗)されて、ミリングによる 100 ℃ 以下の自然上昇温度で定量的にメタンに変換されます。精製・回収した CO2 を金属炭酸塩として固定化してボールミル反応に使用し、「水(水素)を水素源とする金属炭酸塩のメカノエネルギー的メタン化反応」の効率的な進行を目的とした、カーボンニュートラルと地球温暖化対策に貢献する新しい化学変換法に展開します。

06
新しいデバイスやエネルギーを組み合わせた
連続フロー合成法の開発研究
Research and development of continuous flow synthesis methods combining new devices and energy
フロー式重水素標識法やニトリルの選択的変換法に加えて、官能基選択的接触還元やカップリング反応も連続フロー法に展開しています。またマイクロ波フロー装置と球状活性炭に担持した白金族触媒を組み合わせて活性炭上にマイクロ波エネルギーを集約させ、フロー流路内に局所高温反応場を形成することに成功しています。
この装置にメチルシクロヘキサンや2-プロパノールを送液すると、白金族触媒的に脱水素反応が効率よく進行し、水素を取り出すことができ、これを利用して、メチルシクロヘキサンや2-プロパノールのような石油化学的に製造されている有機化合物から水素を取り出し、結果として生成する工業的利用価値の高い溶剤を産業利用できる、カーボンフリーのシステム構築に成功しました。また、トルエンやアセトンの再度水素化により、水素キャリアとしての繰り返し利用や液晶や有機 EL の材料として有用な多環芳香族化合物への変換も可能です。水素製造にとどまることなく、産業要請の高い機能性物質の合成への展開も目指しています。
【研究成果】ニトリルを原料として3種類のアミンを簡単に作り分けできるようになりました
